徒然なるままにその日暮らし

なんか書いてます

白は色である

 色付きの夢を見る。

夢は記憶の再生だというから、誰の夢も色がついているのだと思っていたがどうもそうでもないらしい。

文字や数字にも色がついている。

本や資料を読む時、字に色がついていると情報過多で脳がパンクするため、普段の生活では文字数字のみ黒一色のモノトーンにモードを変更している。

色には関心があった。そんな訳で手に取った本である。

日本の色のルーツを探して

日本の色のルーツを探して

  • 発売日: 2017/03/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

色とは何かという定義から始まり、赤、橙といった主だった色のルーツ、時代をどう彩ってきたのかという内容が興味深いエピソードをまじえて章ごとに紹介されている。

専門書として読むには浅いが、雑学レベルの知識を得るには面白い。色についてもっと掘り下げて知りたいという場合は、著者(色彩文化研究家)の別の著作を読むか、参考文献からいくつか手に取ってみるといいかもしれない。

 

もっとも興味をひかれた箇所は「日本の色のしくみを探る」として、古代日本人の色認識が光の色から生まれたとする考えを紹介した部分。国文学者の佐竹昭広は「古代日本語における色名の性格」と題した論文において、アカ、クロ、シロ、アヲの色名は光の色から生まれたのだと主張しているのだとか。

それぞれを明(めい)、暗(あん)、顕(けん)、漠(ばく)と現し、明は朝焼けのアカ、暗は夜の闇のクロ、顕は夜が明けて物が顕著、はっきりと見える状態のシロ、漠は明と暗の中間、青(アヲ)みがかった状態をさすという。

 

この部分を読んで腑に落ちたことがある。日本人はシロを色として認識しているという点だ。英語でcolouredというと有色人種、つまり白系人種外を指すのだが、私はこの単語に違和感を持っていた。白も色だろう?

 

白の章で面白かったのは、「八朔の白装束」という小見出しのついたエピソード。天正18年(1590)八月一日、徳川家康が覚悟の気持ちを持って白装束で江戸城に入ったことを記念し、諸大名たちは八月一日(朔は一日の意)には白ずくめの装いをしたのだという。

 

和の色といって思い浮かべるものは何といっても襲色目。襲(かさね)とは、四季折々の自然の色彩を衣装の配色に取り入れたもの。平安時代の貴族のおしゃれだったが、もうひとつ、和の色といえば、歌舞伎の色。こちらは庶民の色。

 

恋愛スキャンダルや世事俗事を題材にした歌舞伎は庶民の娯楽。歌舞伎役者が舞台でまとった衣装は庶民の間で大流行したらしい。今でいうインフルエンサー的な存在だったのだろう。

 

舞台衣装の派手な装いを庶民がすることに幕府がいい顔をしなかった。江戸時代、幕府は、派手な装いや贅沢を禁止する「奢侈禁止令」をたびたび発している。庶民が着ていいのは、茶、灰色、藍色といった地味なもののみ。普通なら反発するところ、江戸庶民は「四十八茶白鼠」を考案、茶色、灰色、藍色のさまざまなバリエーションを生み出し、おしゃれを楽しんだんだとか。この考え方「いき」だなあと思う。抑えつけてくる力に対抗せず、柔らかくさけてしまう。このしなやかさ、実に日本的。日本で民衆革命が起きないわけだ。

 

特筆しておきたいのが、最終章で紹介される「婆娑羅(ばさら)」という色合い。室町時代に流行した言葉だそうで、古い権威にたてつく、自分を貫く、奇抜な装束を身につけて行動する者の意。歌舞伎の「傾き」、ロックンロールに通じるだろうか。本の中では「過度の彩色」を婆娑羅と称して取り上げられている。

写真が何点か掲載されており、そのどれも目がチカチカするほどの極彩色で彩られている。古い権威にたてつくという意味では、日本の伝統的美意識(自然の色彩)から外れており、現代でも通用しそうなモダンなデザイン、意匠のものが見受けられる。

 

婆娑羅として挙げられている例の中に、歌舞伎の助六の衣装があった。黒の着流しに真っ赤な襦袢、紫の鉢巻き、黄色の足袋。一見、ハチャメチャなこの色合い、実は光の色から生まれたとする日本人の色認識を体現している。

黒は夜の闇、赤は朝焼けの赤、紫は青の系統で夜明け少し前の空の色を彷彿とさせ、黄色はさん然と輝く太陽の色。

助六の衣装一つに日本人の色彩感覚がいっぱいにつめこまれている。

もうひとつ、日本人の美意識、チラリズムも。黒の着物からちらりとのぞく襦袢の赤の艶めかしさといったら。色男の助六にふさわしい色味。チラリズムの本家は平安時代の襲だから、江戸に時代が下がり、身分の上下の美感覚がひとつになり、日本人としての美意識が確立されたというところだろうか。

 

日本の色をモダンなデザインにどう取り入れているか、海外でも活躍するアーティストたちの作品も紹介されている。本の内容が「日本の色」とうたっているだけに、伝統的な色を用いて成功した例が挙げられるのは仕方ないとしても、日本人たるもの、日本の美意識を核に、それをどう現代の流れの中で活かしていくか(化かしていくか)、その技量をもつことが海外でも活躍できる秘訣ではないかと思う。

 

オリジナリティの前にアイデンティティアイデンティティこそがオリジナリティ。

 

日本人の色彩感覚、美意識は移り変わる四季の自然の美しさに根差しているのだなあと改めて思う。