敬老の日に思う
ちょうど折り返し地点の年齢に達した。
過去を振り返りつつ、先々にも思いを馳せている。
過去は変えられない。振り返るのは同じ失敗を先々で繰り返さないためだ。
日本人の平均寿命は、男性で約81歳、女性で87歳とのこと。
あくまで平均であり、2024年時点での数字。
私は、この先、日本人の平均寿命はどんどん低い年齢になっていくと思っている。
現代人は昔の人のようには長くは生きられないのではないか。
医療技術は進歩していくだろうが、その進歩のスピードよりも健康が損なわれるスピードの方が速いだろうと危惧している。
日本人の体質にあわない食生活、ストレスだらけの社会……
親や祖父母たちのように年を重ねていける気がしない。
4,50代でバタバタ斃れていく人間が多くなり、平均寿命を引き下げるのではと、そんな気がしてならないのだ。
そのうちに、年を取ることが健康の証になる、そんな時代が来るのではないだろうか。
医療の発達してなかった昔では年を取ることができることは目出度いとされ、古希、喜寿、傘寿、米寿、卒寿とお祝いしたものだった。
年を取るということは「有難い」ことなのだ。
それと、「おかげさま」でもあると思う。
医療が発達し、昔だったら死んでいた病気でも死ななくなった。それは医療を発達させてくれた先人たちの「おかげ」、医療従事者の方々の「おかげ」だ。
「おかげさま」であり、老いていけることは「有難い」のだ。
「殺戮にいたる病」我孫子武丸
本作はエピローグから始まる。おや?と思い、一番最初のページにいるのかを確認した。電子書籍だったため、まちがえて後ろの方のページをクリックしてしまったのかと思ったのだ。
本作は、連続殺人事件犯人逮捕の場面から始まる。時系列としては一番最後にくるため、その部分は「エピローグ」となる。
ミステリーといえば、犯人は誰か、を探っていくジャンル。その常道をくつがえして犯人は冒頭に明かされる。刑事コロンボも犯人が最初に明かされているが、本作はコロンボシリーズとは趣を異にする。
「東西ミステリーベスト100」(文藝春秋、2012年)の「東=国内」編第80位。
【あらすじ】
以下、ネタばれを含みます。
叙述トリックを用いた作品なのだそう。私はミステリー作品を読むのは好きだが、トリックがどうのだとか、種別分類にはあまり興味がない。だから叙述トリックといわれてもピンとこない。そういうものかーといった程度である。
ピンとはこなかったが、読んでいて、違和感はあった。描写部分に情報が足りないような感じがあったのだ。それと、被害者の台詞から得られる情報と、地の文で与えられる情報のずれ。第二の被害者が犯人にむかって「おじさん」と呼びかける場面。最初の違和感がここだった。「おじさん」とは?
後々、実は犯人が四十代の父親の方で、読者は二十代の息子の方を想定していただけとわかると、被害者が「おじさん」と呼びかけた理由はしっくりくる。このセリフだけでも、作者がいかに丁寧にトリックをしかけているのかがわかる。
物語の終盤、冒頭に示されたエピローグの少し前の時間軸で明かされる衝撃の真実。犯人、蒲生稔の正体が明かされた瞬間、殴られたかのような衝撃を受ける。と同時に、「だからか」と、途中で抱いた疑問がするりとほどけていく。
エピローグへと続く場面での出来事は、映画「サイコ」を彷彿とさせる。母親への執着についても、物語序盤からそれとなく示唆されている。そして情報はクレッシェンド記号のように、徐々に徐々に、読者に細部が公開されていく。
グロテスクな描写、場面も多い。生理的な嫌悪感を抱いたので、私は目を細めながら読んだ。作者が心血注いだ一字一句を読み飛ばしたくはないと頑張ったものの、正直、きつかった。
Kindle本、出版しました
「告白」湊かなえ
怖い。読んでいるうちから背筋が寒かったが、読了後も恐怖感がぬぐえない。これこそホラー。どんな化け物より妖怪、幽霊より恐ろしいものは「人」と「人の心」。その恐ろしさを巧みに描いた傑作。
第6回本屋大賞、週刊文春ミステリーベスト10(2008年)1位。
【あらすじ】
娘は殺された、この教室にいる生徒に――。終業式の日、教師が行った「告白」により犯人の生徒と周囲の人々は大きな波に飲み込まれていく。
*ネタばれを含みます。
*いじめられた経験のある方はフラッシュバックする可能性があるので読まない方がいいと思います。
ミステリ作品としても傑作。伏線の張り様が美しい。そして衝撃のラスト。このラストにむけて物語は進んでいったのだ。
一人称による「告白」スタイルで物語は進んでいく。最初は一人娘を殺された教師による犯人を告発する「告白」。
続く生徒による「告白」によって、犯人生徒たちがその後、どのように過ごしたか、クラスでどのように扱われたかが語られる。いじめを描くここが一番残酷な場面だと個人的には思う。殺人を行った生徒とクラスメートたちという関係は、犯罪者と一般市民という関係そのもの。
その後、犯人生徒の母親の日記、その母親を殺害した生徒の告白、もう一人の犯人のウェブサイト上での告白と続き、最後の章は再び娘を殺された教師による「告白」と復讐劇の顛末が語られる。
事件関係者のそれぞれの視点から語られることで事件にはさまざまな角度から光があたり、より立体的にみえてくる。かかわる人々の内面もさまざまだ。そして一人称で語られるため、ひとりよがりだ。たとえば、犯人生徒とその母親。読者はそれぞれの内面を読んで知っているが、この親子はまるで重なりあっていない。すれ違い、どころの話ではない。母親のひとりよがりぶりは読んでいてイラつくほど。それほど作者の描写力が優れているという証拠なのだが。
犯人生徒とその母親はひとつの例として、他の関係者同士の内面、感情、考えもまるっきり重ならない。犯人生徒その2とそのガールフレンドもまたしかり。教師とその次の担任教師もだ。見事なまでに歯車がかみあわない。かみ合わないくせに、最後の悲劇にむかっては足並み揃えてむかっていく。悲劇なのだろうけど、喜劇ともいえてしまうのかもしれない。人はそれほど愚かなんだろう。
作者の人間観察力の鋭さが素晴らしい。
「庚申夜話」、更新しました
庚申の日に更新する「庚申夜話」、投稿しました。
4年に一度やってくる2月29日。その日には28日と同じことをして過ごさなくてはらないという禁を破った「私」に何が起きたのか。
「妖異金瓶梅」山田風太郎
エロティックでグロテスク、それでいてミステリー要素はしっかりとある。犯罪の陰に女あり。動機は色と欲。中国の「金瓶梅」に原案をとり、探偵役の応伯爵が謎解きに奔走する。「東西ミステリーベスト100」(文藝春秋、2012年)の「東=国内」編第30位。
豪商、西門慶と彼の愛妾たちの周囲で次々と起こる事件を、西門慶に取り入っている応伯爵が解決していく。
バラバラ殺人、転落死、舌を噛み切る、目をつぶす……事件の被害者は西門慶がこれと目をかけた女たちであり、裏で糸を引いているのは愛妾の一人である藩金蓮。彼女の動機ははっきりしている。ひとり、西門慶の愛を得るがため。
凄まじい感情だ。邪魔なもの、自分より美しいもの、優れたものは排除してしまえという考えは極端だ。西門慶が新たに愛妾にしようとした女の肉を西門慶の口に運ばせるなど、鬼の所業としか思えない。
しかし、美しい鬼なのである。探偵役の応伯爵は藩金蓮の犯罪を暴きつつも、彼女の魔力に囚われている。
本作には多くの美女が登場する。どの美女も筆者の描写力によって非常に生き生きとして魅力的だ。同じ描写力は暴力的な行為ですらも美しく妖しく表現する。読んでいるだけで眩暈がした。



