いつか、本格的な長編のミステリを書きたいという野望を抱いている。
横溝正史や江戸川乱歩の世界が好きなので、ミステリと日本独特のどろりとしたコミュニティで起こる殺人事件を書いてみたい。
まずは形から入ろうと、「書きたい人のためのミステリ入門」を手に取った。
著者は編集者として、「新潮ミステリ―大賞」「新潮エンターテインメント大賞」といった新人賞の下読みをしてきた経験から、ミステリを書きたいという人にむけて「心得」、ミステリの「お約束」を紹介している。
編集者というだけあって、情報がわかりやすくまとめられていて、読みやすい。ミステリ入門とうたってはいるが、「書く」という作業に関する心得は他ジャンルのフィクションを書く時にも役に立つと思う。
「書き過ぎてはいけない」というアドバイスは本当にその通りで、私も気をつけるようになった。書く方は楽しいが、冗長な文章を読まされる方はたまったものではない。そして読む方は書く方が心血注いだ文章にそれほど注意して読んでいない。私自身が読者となった時に印象的な文章やセリフには一作品につき、多くて二、三ほどしか出会わない。
そういうものだなと思ってからは、書く力がいい具合に抜けたように思う。細かく書き過ぎるよりは物語の構成、バランスに力を注いだ方がいい。だから「書き過ぎるな」となり、推敲と改稿に時間をかけよ、という著者のアドバイスとなるのだと思った。全部つながっている。
「書きたい」とあるが、著者自身も述べているように、ミステリのお約束を知ることにより、読む時にそれまでとは違った角度でミステリ作品に向き合えるようになる。そういう意味でも、読む専の人にも面白い内容だ。
巻末には本書で取り上げられた作品の一覧が掲載されている。それらを後追いで読んでいくのもまた楽しい。