徒然なるままにその日暮らし

なんか書いてます

「打ちのめされるようなすごい小説」

買った記憶がないので、おそらく書店で働いていた時にもらったサンプル本だったのだろう。

この本が私の読書の裾野を十倍にもひろげた。

我ながらこの本を手にした自分を褒めたい。

タイトルに偽りなし。

全50作の小説が紹介されているが、ほぼすべての作品に「打ちのめされる」。

ほぼというのは、現在では入手困難、まだ読了していない作品が片手の数ほどあるため、すべてに目を通していないからだ。しかし、これまで読んできた四十数作品、すべてにおいて「打ちのめされた」から、残りもまた「打ちのめされる」と確信している。

この書籍に出会うまでの私は偏読がひどく、近現代の小説ばかりを読んでいた。夏目漱石芥川龍之介太宰治……日本文学定番中の定番ばかりである。私が好きで読んでいた作家の作品はごくわずかしか紹介されておらず、恥ずかしながら後はほぼ知らない作家の知らない作品ばかりだった。

本作は、昭和初期から戦後までを数年ごとに5つに区分し、その時代に活躍した作家の作品をピックアップしている。私が好んで読んでいた作家たちは戦前に集中していたので、他の作家、作品を知らないのは当然だった。

取り上げられた小説は、一部を抜粋の上、著者の解説が書き連ねられてある。この著者の解説が秀逸なのである。下手すると単行本の1ページにすら満たない分量で作品の魅力を余すところなく伝えている。どの作品だったか覚えていないが、パラパラとページをめくって気になった作品を読んだ後に打ちのめされたポイントがまさに著者が解説で指摘したポイントだった。

この著者の紹介する本ならば間違いない、この本に掲載されている全50作品を読んでやろうではないかと、ここから裾野がひろがっていった。自分で好きな作品を読んでいくことも楽しいが、自分とは好みや考え、感覚が違う人間が紹介する本を読んでいくことも楽しい。この本はまさにそういう楽しみを教えてくれた。

損はしたくないと誰しもが思う。お金を出して時間をかけて読んだ本が面白くないと損した気になる。だが、この本に紹介されている全作品はお金と時間をかける価値のあるものばかりだ。もう一度言うが、本当に「打ちのめされる」。

「打ちのめされる」小説をしぼりこんだ著者の読書量にも打ちのめされる。確実に打ちのめすだろう作品をピックアップするためには膨大な数の小説を読まなくてはならなかったはずだろう。著者には感謝してもしつくせない。